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会長といったトップと総会屋との関係が始まったのは、第一と勧銀の合併時にまでさかのぼり、以来、途切れなく続いていた。
その中で、力を増していったのがロッキード事件に連座した児玉誉士夫に連なる出版社社長のフィクサー・木島力也と弟子の総会屋・小池隆一です。
一観の経営陣は彼らの要求に従って累計で数百億円に上る不正融資をおこない、小池はそのカネで四大証券の株を大量に買い、それを圧力にして野村澄券などに株を運用させ巨額の利益供与を受けてきたという構図です。
江上さん自身が最初に知ったのはいつですか。
事件になる一年ほど前ですね。
当時、反省も込めて振り返れば、不祥事の隠蔽にけっこう成功していたから、自分では隠蔽が得意だなぐらいに思っていたわけです。
そこへ突然、北海道新聞のM記者から取材が入ったんです。
M記者は、都内のビルの謄本を持ってきていて「これ知っていますか」と聞く。
見ると、大蔵省の差し押さえ物件に一触から融資が付いて実行されている。
「こんなの知らないけど、何か問題あるの」と聞くと、所有者が総会屋の親族企業で、こんな物件を担保に億単位の融資をしているのはおかしいんじゃないかと言うわけです。
これが、例の巨額不正融資の舞台になった案件だった。
一見しただけで少なくとも異例な融資に違いなく、話を聞きながら私もどきどきしました。
ただ、完済になっているようだし古い話だから、とその場はお茶を濁したんですが、最後に「書くの」と開くと「ええ、まあ」という話だった。
結局、この北海道新聞が九六年九月に野村諜券が総会屋に損失補填の形で利益供与したという第一報を載せ、この件が徐々に話題になっていくわけです。
と共に、総会屋が大量に持っていた野村諜券などの株の原資はどこから出たんだ、といった一観に関係する記事もポッポッ出始めた。
私自身は謄本を見たことがきっかけで、その直後にこれは自分なりに当の親族企業への融資記録を調べなければならないと思って、信頼する広報部の部下に密かに調査を指示したんです。
そうしたら、とんでもないことがわかった。
累積すると未償却の残債が四十億円もあった。
その事実を知ったときの心境はどういうものでしたか。
二言で言えば、「ああ、この銀行は終わったな」と。
自分で言うのも何ですが、私はそういうカンは妙に鋭くて当たるんですよ。
調べた部下には「黙ってろよ。どういうことか、もっと調べるから」と口止めしたんですが、自分の中ではトップの責任問題、交代までいくだろうと思った。
報告を受けたその一瞬で、根性を固めましたね。
総務部に開きに行ったりしましたが、その問題融資を扱っていた当の部署なんだからもちろん何も教えてくれない。
かえって上の方からは「深入りするなよ」と言われたりしましたが、それでもこっそり調べていったんですね。
そうこうするうちに、今度は読売新聞の取材チームがやって来ました。
彼らが実は最も取材が先行していて、「野村諜券などの株の買取資金は一勤から出てるみたいだけど」と言われ、私も一観が融資したカネが株に流れたことは推測できたけど「そんなはずな朗いよ」ととぼける。
でも、記者は「いずれ書く」と。
「そんなこと書かれたら、オレの銀行つぶれるな」と言ったら記者は笑って「いや、つぶれない。
つぶれないから書くんです」と、初期の頃は記者もまだそういう認識でした。
私は本気でつぶれると思い、足を震わせていましたが……。
つぶれるような大事件にはならないと。
ええ。
しかし私は、取材を受ける度に「つぶれるな」という予感を一層強くしていました。
そこへ突然、産経新聞が別の総会屋に五千万円融資したという記事を出すと言ってきたわけです。
私は寝耳に水で、行内で総務部や弁護士を招集し「何ですか、これは」と聞くと、その総会屋はすでに死亡しており、融資も回収したから正規の貸出金だという説明だった。
「正規の融資で絶対、間違いないね」と何度も念押しし、夕刊で記事が出るというので、それなら一勧としても問題ない融資だという記者会見をやろうとしたら、にわかに総務部は慌て出したりした。
会見に誰に出てもらうかも一悶着あって、担当役員は酒飲みに行っちゃっていない。
しょうがなくて全く事情を知らない企画担当の役員に頼み、その人に度胸があったおかげで何とかうまくやってくれました。
それに回収されてる融資だからマスコミもさほど問題にせず、その報道は立ち消えになった。
ただし、そのときも私の頭の中に常にあったのは四十億円の一件です。
会見には二百人ほどの記者が集まり関心自体はもの凄く高く、五千万円の回収された融資でこうなら、四十億円の未回収の融資がオモテに出たら一体どういうことになるのか。
まだ、この融資に歴史的に根深い背景があることも知らなかったんですが、もういよいよダメだなと感じました。
上層部への直訴そこで、江上さんなりに上層部への行動を起こし始めるんですね。
まず会長のところに行きました。
会長とは同じ丹波の出身で親しかったので、サシで話そうと思った。
私は、一観に巨額の不正融資があり、野村謹券と総会屋の絡みでいずれオモテに出るだろうと、こういうたとえ話をしました。
ビーバーのダム造りのように、水がまだ勢いのない時には何とか止められるけど、鉄砲水になったら絶対に止められない。
そのときには頭取も含めて辞任の覚悟をして頂きたいと言ったんです。
いまから思い返しても不思議なんですが、そのとき会長はわかった″という返事をされた。
いま思ってもすごいことです。
こうした決断はなかなかできることではない。
頭取にも会長からその話をしてくれました。
一方で、私の耳にはその四十億円の融資の背景、例えば一観ができるときの本店の払い下げの際の木島力也とトップの関係などが情報としてどんどん外部から入ってくる。
また、深く調べていた読売新聞の取材攻勢も激しくなってきて、私の自宅に夜ごと「明日、こういう記事を出します」と電話がかかってくる。
まだ出来ていないゴルフ場の価値のない会員権を担保にして融資していたなど、全く知らない話についてコメントが求められるわけです。
その場は「そんな融資してるはずないよ」と答えるんですが、そのたびに私は私でその件を調べ始める。
すると全部、記者の言う通りなんですよ。
不正融資の実行ももちろん、検査も素通りし大蔵省にも報告していない。
銀行の中で、実はどれだけいい加減なことがされてきたかを思い知るわけです。
結局、記者に「あなたの言った通りだ」と答えることになり、それが記事になっていった。
行内の危機管理の実際はどういうことだったんですか。
連日、弁護士を含めて朝八時ごろに集まって記事への対策会読をやりました。
ところが弁護士は、「そういう融資はバブル時代はたくさんあった」とか、「全く問題のない融資だ」とか一言うんですね。
大蔵省の検査をごまかすのも当然だと言わんばかりだった。
それを皆さん、けっこう平気な顔で話すんですよ。
ある担当役員も「大丈夫ですから。
大蔵省も何も心配してないし」と、根拠もなくひたすら大丈夫だと会議で言い続ける。
そして大丈夫だと言い続けられると、会長や頭取も安心するのか、あまり深刻にならずに聞いているのです。
大きな危機が襲ってきたとき、結局、外を見ないで中ばかり見ているんですね。
私は最初に四十億円の事実を知ってからほぼ一年、それを一人で抱き続けて自分なりに調べて、一勤の中にとんでもないものが巣くっていることに気付き始めていたから、そういう会話を開いていて本当に切れそうだった。
それで切れるわけですね。
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